筋肉組織を保護・修復する「HMB(β-ヒドロキシンβ-メチルプチレート)」の研究論文・エビデンスまとめ

序文:タンパク質の合成作用があるHMBの役割

HMB

HMB(β-ヒドロキシンβ-メチルプチレート)は、身体にとって筋肉組織を保護・修復するために必要とされる成分です。

そのβ-ヒドロキシンβ-メチルプチレートの略語としてHMBと呼ばれています。

HMBはハードな運動、高齢者のサルコペニアや癌、慢性閉塞性肺疾患などの炎症性全身疾患による筋肉量の減少などに対し、タンパク質の分解を遅らせ、タンパク質の合成に作用します。

HMBが身体内で働くことにより、筋肉細胞構築を繰り返しながら筋肉量を維持することができます。

身体では私たちが摂取する肉などのタンパク質に含まれており、必須アミノ酸の一つであるロイシンを分解することによりHMBを作りだし、ロイシンの約5%のみがHMBに変換されます。

HMB(β-ヒドロキシンβ-メチルプチレート)とは

HMB

HMBとは、必須アミノ酸のひとつであるロイシンの代謝産物のことをいいます。

ロイシンは、筋肉細胞のタンパク質を合成する役割を担うもっとも重要であるアミノ酸のひとつです。このロイシンが筋肉や肝臓で代謝され、生み出されたのがHMBです。

アミノ酸について

人の身体を構成する成分は、水分が約60%、糖質や脂質が約20%、タンパク質が20%でできています。

タンパク質は、20種類の必須アミノ酸と非必須アミノ酸が連なってできていて、私たち身体の皮膚、筋肉、毛髪、爪、内臓を作りだすことに関与しています。

このように、タンパク質の元であるアミノ酸は身体を作ることに欠かせない栄養素であると言えます。

先にも述べたように、アミノ酸には必須アミノ酸と非必須アミノ酸と2種類のアミノ酸に分けられています。

身体を構成するアミノ酸の種類

必須アミノ酸
(体内で作り出すことができない)
バリン・ロイシン・イソロイシン・メチオニン・リジン・フェニルアラニン・トリプトファン・スレオニン
非必須アミノ酸
(体内で作り出すことができる)
アルギニン・グリシン・アラニン・セリン・チロシン・システイン・アスパラギン・グルタミン・プロリン・アスパラギン酸・グルタミン酸

ロイシンの代謝産物であるHMB

HMBは、必須アミノ酸のひとつであるロイシンの代謝産物であるため、体内で作りだすことが出来ません。

ロイシンには、タンパク質の生成や分解を調整する働きがあります。

ロイシンの主な役割として、筋タンパク質合成の促進や筋肉グリコーゲン(筋肉の繊維)の合成・酵素活性があります。

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ロイシン(http://www.tennoji-h.oku.ed.jp)

ロイシンを多く含む食品には、カツオや鶏胸肉には100gあたり1800~1900mg、鶏卵1個には550mg含まれていると言われています。

しかし、食品として摂取しても約5%のみがHMB変換され、HMBを1g合成するためには、およそ20gのロイシンが必要であると言われています。

HMB

様々な研究によると、アスリートの運動能力の向上、高齢者における筋肉減少、癌や慢性閉塞性肺疾患による筋委縮に対し、HMB3g/日の摂取が必要とされています。

例えば鶏の胸肉の場合、およそ1kg摂取しなければ1日に必要量のHMBが充足できないことと同じであり、あまり現実的ではありません。

よって、普段の食事だけではHMBの補給は不十分であるため、栄養補助食品やサプリメントなどで補う必要があります。

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HMBがもたらしてくれる効果

HMB

ここからは、私たちの身体の中で筋肉への作用、高齢者に多いサルコペニア、癌や慢性閉塞性肺疾患への作用など疾患の概要なども含め、HMBがもたらす効果について説明していきます。

運動能力の向上及び傷ついた筋肉の修復

パントンL氏らの研究では、激しい持久力運動の結果として、筋肉の損傷に対する補給用β-ヒドロキシ-β-メチルブチラート(HMB)の効果を調べました。

被験者13名に対しHMB(3g /日)またはプラセボのいずれかをランダムに割り当て、1日6回の訓練と補足の後、すべての被験者が長時間の走行(20km)に参加する方法をとりました。

筋肉損傷を評価するために、クレアチンホスホキナーゼおよび乳酸脱水素酵素(LDH)活性を、長期間にわたり測定しました。

プラセボ補充群とHMB補充療法とを比較した結論として、3.0g/日のHMBを補充すると、長期間にわたりクレアチンホスホキナーゼおよびLDH活性が低下することがわかりました。

これらの研究は、HMB補給が運動誘発筋損傷を予防するのに効果があったという結論に至っています。

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「運動器」の各パーツ(https://locomo-joa.jp)

また同研究者は、ロイシン代謝産物であるベータ – ヒドロキシ – ベータ – メチルブチラート(HMB)の補給影響による抵抗トレーニング研究を行いました。

20〜40歳の年齢の39人の男性および36人の女性を、2つの性別コホートにおいてプラセボ(P)補充群およびHMB補充(3.0g HMB / d)群のいずれかに無作為化された研究です。

週に3回/4週間訓練を受けた結果、HMB群の血漿クレアチンホスホキナーゼレベル(血漿CPK)は、抵抗トレーニング4週間後のプラセボ群よりも抑制される傾向がありました。

以前の訓練状況またはHMB補給を用いた性別に基づいて、筋力増強に有意差はなかったと報告されています。

しかしHMB群では、プラセボ群よりも上半身強度の増加が大きかったそうです。

プラセボ群では無脂肪体重が0.9±0.2kg増加し、脂肪体重量は0.5%減少しましたが、HMB群では無脂肪体重は1.4±0.2kg増加、脂肪体重の減少は1.1%±0.2%との報告もあります。

この研究では、性別や訓練状況にかかわらず、HMBは運動プログラムと組み合わせて上半身の筋力を高め、筋肉の損傷を最小限に抑える可能性があることを示しています。

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ロイシンからHMBへの代謝経路図(https://ja.wikipedia.org/)

多くの研究では、筋肉組織が損傷して伴う痛み(いわゆる筋肉痛)は、トレーニングを繰り返すことにより筋肉が修復され構築されていくため、HMBの摂取が必要であるとされています。

筋肉損傷の血液マーカーを減少させ、筋肉細胞の修復をサポートしてくれるHMBを補うことで、運動能力が向上することも示されています。

またHMBの補給によって、筋力トレーニングと筋肉量を加速させてくれるので、トレーニングの持久力も向上することができます。

よって、HMBを補給することによって、すべての運動能力の向上及び傷ついた筋肉の修復の効果が期待されています。

国際オリンピック委員会(IOC)においては、HMBはドーピング法を侵害しない法的物質として分類しており、有害な影響はないと言われています。

ロコモティブシンドローム、サルコペニア対策としてHMB

ロコモティブシンドロームとは、骨や軟骨、関節、筋肉といった運動器がいずれか、あるいは複数に障害が衰えて立つ、歩くといった動作が困難になる状態のことです。

和名では運動器障害と言い、略してロコモとも言います。ロコモが進行することで、寝たきりや要介護になるリスクが高くなります。

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ロコモティブシンドロームの概念図(https://locomo-joa.jp/)

また、サルコペニアとは、ギリシャ語のsarco(筋肉)とpenia(減少)からなる造語でロコモの中でも特に筋肉量の減少をサルコペニアと言います。

筋肉量の低下を必須項目とし、筋力または身体能力の低下のいずれかが当てはまればサルコペニアと診断されます。

筋肉は通常、運動による刺激やタンパク質の摂取によって作られますが、サルコペニアでは加齢による筋肉の合成と分解のバランスが崩れて筋肉が減少してしまいます。

サルコペニアでは、筋肉が減少することで関節への負担が増加し関節の炎症に繫がります。

また、痛みによる運動量低下は、さらなる筋肉の減少をもたらし、筋肉量の減少がふらつきや転倒のリスクを高めることになり骨折などの恐れもあります。

高齢者が骨折すると運動量は低下し、更に運動量の低下は骨密度の低下をもたらすなど負の連鎖を招いてしまいます。

HMB

サルコペニア:定義と診断に関する欧州関連学会のコンセンサス ―高齢者のサルコペニアに関する欧州ワーキンググループの報告―の監訳 厚生労働科学研究補助金(長寿科学総合研究事業)高齢者における加齢性筋肉減弱現象 (サルコペニア)に関する予防対策確立のための包括的研究研究班

高齢者の筋肉喪失に対するベータ – ヒドロキシ – ベータ – メチルブチレート補充の効果についての研究があります。

65歳以上の高齢者147人の対象とし、その中から140人が対照群に割り当てられ、7つの無作為化比較試験が行われ、HMBを使用して体組成の絶対的変化が報告されています。

この研究では、以下の説がバックグラウンドに挙げられています。

「分枝鎖アミノ酸ロイシンの代謝産物であるベータ – ヒドロキシ – ベータ – メチルブチラート(HMB)は、筋肉の質を改善する潜在的な補足物質として研究されている。しかし、HMB補給が高齢者の筋肉減少に有益な効果を有するかどうかは不明である」

その結果、メタアナリシスは、対照群と比較して、介入群においてより大きな筋肉量増加が示されています。また、介入群と対照群の間に有意な脂肪量の変化はなかったとのことでした。

結論では、以下のように述べられています。

「ベータ – ヒドロキシ – ベータ – メチルブチレート補充は、高齢者の筋肉量の保存に寄与した」

「HMB補充は、安静または他の要因によって誘発される筋肉萎縮の予防に有用であり得る」

よって、アミノ酸を有するHMBは、高齢者においても除脂肪体重およびタンパク質代謝回転を増加させることも可能なのです。

癌や慢性閉塞性肺疾患などの消耗性疾患に対するHMBの効果

癌や慢性閉塞性肺疾患などの消耗性疾患によって筋肉量は低下します。

前述したサルコペニアは、加齢伴う一時的サルコペニアと呼ばれ、癌などの消耗性疾患では年齢問わず疾患や栄養障害によるサルコペニアにあたります。

一般的に、消化器系の胃がんや大腸がん、食道がんや膵がんでは外科的手術により身体が高度な生体侵襲を受けるため、異化が亢進し筋肉量が低下すると言われています。

外科的手術だけではなく、手術前後に行われる化学療法によって食事摂取量が低下することにより、異化が亢進し筋肉量が低下するとも言われています。

また、周術期においては絶飲食にすることが多く、必要な栄養量が身体に充足できないことも筋肉量が低下することも考えられます。

HMB

慢性閉塞性肺疾患は、COPDと略して言われ長期間の喫煙歴により発症する肺疾患であり、さまざまな合併症を伴う全身性疾患です。

COPDでは、肺の換気がうまくいかず呼吸筋量の仕事量が増加することや、労作時に呼吸困難を起こすことで活動量が低下し筋肉が萎縮していきます。

また、活動量が低下することにより、胃腸の動きも低下し食事摂取量も少なくなります。

HMB

慢性閉塞性肺疾患(http://www.jrs.or.jp)

COPD によって、栄養障害によりやせてしまうと、呼吸筋や下肢筋などの筋力が低下します。

筋力が低下すると、動くだけで息切れや倦怠感が増加し、身体活動が低下してしまいます。その結果、身体活動の低下が、生活の質も低下してしまうといえます。

COPD では、食欲が減ることでやせる、息切れがすることで動かなくなり食欲が減るという悪循環に陥らないようにすることが重要になります。

COPDにおける筋委縮の原因として、筋タンパク質の合成低下や筋細胞のアポトーシス(筋細胞の死)が原因であるとの報告があります。

β-ヒドロキシ-β-メチルブチラート(HMB)は、ロイシンおよびそのケト酸α-ケトイソカプロン酸から誘導される代謝産物です。

ロイシンは筋肉細胞のタンパク質合成を調節する役割を担い、HMBはそのような調節において重要な活性代謝物であるということは前述したとおりです。

HMBは、タンパク質合成を行い筋肉タンパク質分解の調節をすることが示されています。

またHMBは、コレステロールを合成する補酵素介して細胞膜を安定化させ、それはまた、細胞アポトーシスを減少させることによって細胞生存を改善させます。

HMB

HMBは、運動選手やボディービルダーによるエルゴジェニックサプリメントとして広く使用されており、通常は運動トレーニング、筋肉量と筋力を増加させてくれます。

いくつかの研究では、筋萎縮(癌、後天性免疫不全症候群、慢性閉塞性肺疾患)に関連する慢性疾患におけるHMBの役割を探究しています。

このレビューは、高齢者における筋肉減少症(年齢または疾患に関連した筋肉量および機能の喪失)の管理におけるHMBの役割に焦点を当てています。

ほかの研究では、抵抗運動の有無にかかわらず、就寝時の筋肉量の維持および高齢者の痩せ(筋肉)質量および筋肉機能および身体能力パラメータの増加が示されています。

しかし異質の方法論的アプローチは確固たる結論を排除し、サルコペニアを治療する有望なサプリメントとしてのHMBの役割を確認するためにはより多くの研究が必要であるといえます。

HMB

アスリートが運動能力の向上や筋力を鍛えるためだけでなく、癌や慢性疾患による全身性炎症によるサルコペニア対策(筋肉維持)には、適切な栄養摂取と適度な運動が重要となります。

栄養源としてはプロテイン(たんぱく質)やBCAA(分岐アミノ酸)などがよく知られていて、これらを配合した商品が流通しています。

これらは筋肉の原料となるたんぱく源を強化したサプリメントで、筋肉維持に有用な方法の一つです。

これまで、述べてきたようにたんぱく質やアミノ酸は筋肉の原料となることは言うまでもありません。

最近では、一時的な疾患によるサルコペニアでは筋肉の原料となるタンパク源は食事を中心に摂取して、サプリメント等で筋肉の合成促進と分解抑制を刺激する方法が注目されています。

それが、HMB(筋肉の合成促進と分解抑制因子)の代謝産物であるロイシンです。

HMB補給の効果に対するまとめ

HMB

アスリートのための120%のパフォーマンスが発揮できるようにしてくれるサプリメントのための巨大な市場があります。

しかしながら、エルゴジェニック効果を有し、筋肉の強さおよび体組成を改善するのに有効であることが証明された製品はほんのわずかであると言われています。

そのような補助剤の1つに、β-ヒドロキシベータメチルブチラート(HMB)があります。

HMBはアミノ酸ロイシンとそのケト酸α-ケトイソカプロン酸(KIC)から誘導され、運動選手が一般的に使用する経口エルゴジェニックサプリメントとしてよく知られています。

ある研究では、運動訓練とHMB補給とを組み合わせると、筋肉量および筋力が増加し、好気性改善の効果があると言ったエビデンスがあることが示されています。

さらにHMB補充は、訓練されていない人にとっても効果的であることが見出されています。

HMB

HMBの3つの主要な働き

1)細胞ゾルコレステロールを介した筋細胞の完全性の強化

2)プロテアソームによるタンパク質分解の阻害

3)mTOR経路を介したタンパク質合成の増加

最近の研究では、その生理学的効果のさらなるメカニズムが示唆されています。

これには、MAPK / ERKおよびPI3K / Akt経路による細胞アポトーシスの減少および細胞生存の増強、増殖の増加、分化および融合、ならびにIGF-I転写の増強が含まれています。

これらは研究した結果で説明され、HMBの投与量と安全性の問題とともに、ホルモン相互作用が議論されています。

HMBによる4つの効果

最後に、多くの研究結果から、国際スポーツ栄養学会の公式声明(ガイドライン)では、HMBによる4つの効果のエビデンスをご紹介します。

① HMBは筋タンパク質の合成を促進し、分解を抑制することによりトレーニングによる筋肥大効果を増大させる(特にトレーニング初心者)

② HMBは筋トレ後の筋損傷の回復を高める(特にトレーニング初心者)

③ HMBは加齢による筋肉減少を予防する

④ HMBはカロリー制限と組み合わせることで脂肪量の減少を促進させる

HMBの身体への効果が検証されてから約20年経過し、トレーニングの効果を高めるエビデンスは体系化され、さらに新しい研究が積み重ねられています。

また、HMBによる健康分野の研究では、加齢による筋肉減少の予防にとどまらず、癌などのさまざまな疾患によるサルコペニアへの効果が確認されています。

HMB


ライター名 :嘉数智子(かかずともこ)

プロフィール:1997年 看護学校を卒業後、沖縄県内の総合病院に勤務 現在も同病院に勤務しながらシングルマザーとして、仕事と家庭の両立をしています。病院内では、専従看護師と勤務し、病院全体を組織横断的な活動をしています。

認定資格  :2015年 日本看護協会 皮膚・排泄ケア認定看護師取得

所属学会  :日本創傷・オストミー失禁管理学会、日本褥瘡学会、日本下肢救済・足病学会

引用・参考文献

1.Thomson et al。(2009年):訓練された男性に関する9週間の研究を管理。HMBは、除脂肪量を増加させ、脂肪量を減少させ、下半身の強さを大幅に増加させた。

2. Rowlans&Thomson(2009):既存の研究のメタアナリシス。HMB補給は、抵抗トレーニングプログラムを開始する男性の強さの全体的な明確な増加をもたらしたが、訓練された選手のHMBの利益は小さかった。

3. ギャラガー(Gallagher)ら (2000):男性体重持上げ機を用いた制御研究。HMBは、リーン質量およびピーク筋トルクを増加させた。また、筋肉損傷の血液マーカーも減少しました。

4.ガブリエルJウィルソンら:ベータヒドロキシベータメチルブチレート(HMB)が年齢、性別および訓練経験の様々なレベルにわたる運動能力および体組成に及ぼす影響

5.クルス-jontoft AJら:ベータ – ヒドロキシ – ベータ – メチルブチレート(HMB):実験データからサルコペニアの臨床的証拠まで。

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