キノコ療法専門薬局を訪ねて
ロシアといえばどこの国よりもキノコ好きの国。サンクトペテルブルクに、ロシアと世界のさまざまな種類のキノコによる治療薬を開発、販売しているキノコ療法専門薬局がある。
名づけて「イリ―ナ・フィリポヴナのキノコ療法センター」である。また、イリ―ナさんはキノコを使った治療法のセミナーなども実施している。
キノコの国の、キノコ療法薬局を訪ねた。
キノコ療法士がアドバイス
医師であり、20年間キノコを研究してきたというイリ―ナ・フィリポヴナさんは、種類がたくさんあるキノコのそれぞれの特性を知り、キノコによる治療サプリメントを開発して、販売。
その利用指導を目的にしたキノコサプリメント専門薬局を仲間といっしょに誕生させた。
彼女はインドのデリーに本拠がある国際キノコ療法協会の会員でもある。
キノコ療法センターを設立したきっかけは、もともとは民間伝来のキノコ治療のレシピで自分の子どもたちを治療したことによる。
2002年から営業を開始し、現在ではサンクトペテルブルクとモスクワに12店舗をもち、自社製のキノコサプリメントを製造、販売している。
希望者にサプリメントの利用法や自生のキノコを利用するさまざまな治療補助のコンサルティングを行い、それがセンターにまでに成長した。
イリ―ナさんのいわば“キノコの同志”である、モスクワ支部を代表するオリガ・キジュヴァトヴァさんに話をうかがった。
「ロシアでは昔からキノコを食べるほかに治療のために多く使用してきました。キノコには薬草に比べて治療効果のある物質が30~40%ほども多く含まれています。
ベニテングタケ、ジャイアントボール、チャガ、エブリコなどのほか、さまざまなキノコを治療師たちが使ってきました。
以前から知られてきたこれらのキノコによる治療に、新しい知識を加えてシステム化し、正しい治療法を広めることを目的に、私たちのセンターは設立されました。
現在の製造販売サプリメントは約60種ほど。
カプセル、ハーブ茶のような水溶性の水出しタイプ、バルサムなどのアルコール抽出内服タイプ、そして湿布に使うクリームなどさまざまなサプリメントを提供しています」
とオリガさんは言う。
また、薬局の「キノコ療法士」が、それぞれの病気に対してキノコ療法を実施するためのアドバイスを与える。
キノコ療法は従来の西洋医学に替わるようなものではないが、療法士の指導によりキノコ療法を実践することで、病気治療の補助になるという。
消化器性疾患、膵臓疾患、心臓血管病、関節病、皮膚炎、婦人病などの治療のほかに、肝臓を浄化する。変わったところではアルコール依存症の治療にも効果があるそうだ。
なかでも需要があるのは腫瘍。良性・悪性腫瘍に対しキノコサプリメントによる治療の補助がある。
「腫瘍、自己免疫疾患などは、微生物菌類がその成長に対して、大きく影響していることが知られています。
これらの菌類の働きに対して、同じ菌類であるキノコの担子菌類の利用に効き目があるのです。ホメオパシーでいうところの『毒をもって毒を制す』の原理と言えますね。
ヤマドリダケ、アンズダケ、シイタケ、ジャイアントボール、レイシ、サナギタケ、エブリコなどのキノコは、これらの微生物菌類を抑制するばかりでなく、その活動の結果である血液中の毒性物質を除去するので、治療に役立ちます」
と言う。
具体的にはキノコを使って、マクロファージなどの免疫細胞を活性化させることを狙っている。
オリガさんによれば、悪性腫瘍はマクロファージの活動を鈍らせる。
これに対して、たとえばシイタケなどから抽出できる多糖体(βグルカン)がマクロファージやTリンパ球などの免疫細胞の働きを活性化させられるのだと言う。
「悪性腫瘍があるときは必ず血液に毒性物質が観察されます。ですからキノコ療法の開始にあたっては病院で必ず血液検査をしてもらいます。
療法の最初の段階はこの血液の毒性物質を標的にしたもので、血液の正常化です。マクロファージの活動の場をきれいにしてあげることが目的です。
シイタケ、レイシ、そしてスッポンタケのサプリメントを1~3ヶ月間摂取するように勧めています。うまくいけばヘモグロビンが増大し、血液のそのほかの指標が正常化します。
定期的に血液検査を受けて観察を続けます。ただし3ヶ月たって改善がみられない場合は残念ながら効き目はないということになります」
最初の段階がうまく行った場合は、マクロファージの活動を維持させて腫瘍の新しい成長や転移を止め、安定化させることを目的にした第2段階が2~6カ月続く。
さらに、いわば攻撃に転じ、すでに形成された腫瘍細胞を壊す第3段階が続く。
一定のキノコサプリメントの効き目がないときには、別のキノコサプリメントの組合せを試す。
オリガさんが特に注目しているのはスッポンタケ。欧州、シベリア、コーカサス、ベラルーシなどに自生する。
成長速度は30分で十分に成長がわかるほど極めて早いが、すぐ死んでしまう。そのため適切な時期にこれを収穫するのはとても難しい。
スッポンタケは、非常に珍しいもので、軸の中身は空洞で軸自体も発砲スチロールを思わせる腔状である。匂いは独特で悪臭でありながらどこか人を惹きつける。
その効果はシイタケによく似ているという。シイタケに替わるもので、腫瘍やガンに効果のあるロシアのキノコを求めるなかで探し出したキノコだ。
イリ―ナ・フィリポヴナのキノコ療法センターでは、医師やキノコ療法を試したいという人たち向けにキノコ療法の講義も行っている。4か月に1度ほど開催され、毎回50~60人ほどの受講者があり人気だ。
そのほかキノコ療法の本も出版しており、こちらもよく売れている。
出典:ユーラシアビュー(2016 SUMMER vol.102)